2018年8月6日月曜日
●月曜日の一句〔大関靖博〕相子智恵
相子智恵
秋風に万物の影動きけり 大関靖博
句集『大楽』(ふらんす堂 2018.7)所収
明日はもう立秋だ。今年の暑さが収まるのはいつのことになるだろう。
掲句を一読して、歳時記の立秋の頁に本意として必ず引かれている〈秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる 藤原敏行〉(『古今和歌集』)の和歌を同時に思った。
藤原敏行は、秋の到来は目には見えないけれど、風の“音”で、それにはっと気づいたと表現したが、この作者は〈万物の影動きけり〉と、実際に“目に見えるもの”を描いて、それが秋風によるものだと断じているのが面白い。
万物の影が動くのを確認するためには、長い時間それらの影を見続けていなければならないだろう。しかしこの句は「さっと秋風が吹いたら万物の影が動いた」ように仕立てられている。“風が吹いたら影が動く”ということは実際にはないのだけれど、詩としてこのように提示されると、地球を俯瞰したような“神の目線”で、秋風が吹き渡っていき、万物の影が動いていくのを見ている気持ちになる。そして心が涼しくなるのである。
一切が一瞬であるような、不思議な時空の大きさを感じさせる一句である。
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