2018年12月17日月曜日

●月曜日の一句〔今井杏太郎〕相子智恵



相子智恵






外を見て障子を閉めてをはるなり  今井杏太郎

『今井杏太郎全句集』(角川文化振興財団 2018.10)所収

全句集より引いた。初出は『海鳴り星』(花神社 2000.7)所収。

なんと寂しくて、安らかな句だろう。この句では、障子を開けて見えた風景は一切描写されない。一連の動作も流れるように過ぎゆくのみだ。すべては〈をはるなり〉という小さな小さな感慨に、ゆるゆると収束していく。

かといって、〈をはるなり〉だけに重きが置かれているわけではなく、〈外を見て〉〈障子を閉めて〉〈をはるなり〉は同等の重さを持っている。「外を見たなあ」「障子を閉めたなあ」「終わったなあ」という、ゆるゆるとした意識の連鎖の中で、重みはどれにもあるし、むしろ、どれにもない。

ふと、障子を閉めた音が聞こえる。木の棧が立てる「ぽん」という軽い音だ。その音と同時に目の前が障子のやわらかな白色に染まる。それは意識の連鎖の中に生まれた一瞬の余白である。

きっと障子の外の風景は、たいしたことはないのだと思う。けれども、それを見終わった後のふとした余白が寂しくて、それをこんなふうに書きとめられる俳句という詩型は、しみじみいいものだなあと思う。

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