相子智恵
狼の声を閉ぢ込め滝凍てぬ 荒木かず枝
句集『真埴』(邑書林 2018.9)所収
ニホンオオカミが絶滅した吉野の凍滝を想像した。仲間の誰にも届くことのない最後の一頭の狼の声を閉じ込めて、滝は凍っているのではないか。
「をーん」という物悲しい狼の遠吠えに色があるとすれば、凍滝の色になるかもしれないな、と、ふと思う。その毛並みのように銀色で、深い部分は青色の。鋭い凍滝の先端は、狼の牙のようでもある。
地から空へ、狼が天を仰いで仲間へと放った遠吠えは、誰の元にも届かない。逆に凍滝は空から地まで届かない。
どこにも届かない声がどこにも届かない氷の中で、宙ぶらりんに冷たく閉じ込められている。
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