2020年12月14日月曜日

●月曜日の一句〔草野早苗〕相子智恵



相子智恵







改札を鬼が抜けゆく師走かな   草野早苗

句集『ぱららん』(2020.11 金雀枝舎)所載

もう師走も半ばとなってしまった。テレワークをする人も多くなった今年の師走は、電車に乗る人は減ってはいるものの、私が普段利用する路線は、時差通勤をしてもまあまあ混んでいる。改札の人の流れも途切れることはない。以前が混み過ぎていたのだ。

掲句、改札を抜けてゆく〈鬼〉とは、そんな忙しい師走の日々を送る人間たちの形相の暗喩のようにも読めるけれども、〈師走かな〉があるために本物の鬼であるとも違和感なく読めて、不思議で面白い句となっている。新暦と旧暦がずれてしまって、今や節分のものとなっている「鬼やらい」はもともと年末の行事だし、最も太陽の力が弱まる冬至もあって、師走はやはり鬼の存在が近いように思われるのだ。

そもそも鬼と人間は、ほぼ同義なのではないか。改札を颯爽と抜けてゆく鬼は、大津絵の「鬼の寒念仏」のようにどこかユーモラスで、人間とも見分けがつかないのである。

 

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