相子智恵
白鳥に帰心促す白鳥来 國清辰也
白鳥に帰心促す白鳥来 國清辰也
句集『1/fゆらぎ』(2020.8 ふらんす堂)所載
秋から冬にかけて日本に飛来し、越冬していた白鳥が、春になって北方へ帰ってゆく。白鳥同士は連れだってⅤ字飛行をして帰るのだが、そういえば連れだって帰るタイミングはどのように決めているのだろうか。掲句を読んで、おそらく〈帰心促す白鳥〉が来て、鳴いて仲間を誘いながら、帰っていくのだろうと思った。
鳥の言葉が分からない人間にとっては、実際にはそれが〈帰心促す〉鳴き声なのかどうかはわからないのだが、「さあ、故郷に帰ろう」と、切なくも強い決意のようなものが声の中に感じられたのかもしれない。声を掛けられた側の白鳥も、のほほんと餌を食べていたのだろうが、その声でハッと促されたのだろう。
〈帰心促す〉の主観が、写生に大きな踏み込みを与え、掲句を詩情豊かなものにしている。
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