2024年8月21日水曜日

西鶴ざんまい #65 浅沼璞


西鶴ざんまい #65
 
浅沼璞
 

なづみぶし飛立つばかり都鳥 打越
 花夜となる月昼となる
   前句
名を呼れ春行夢のよみがへり 付句(通算46句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)

【付句】二ノ折、裏11句目。 春行(はるゆく)=晩春。 よみがへり=無常。

【句意】名を呼ばれ、行く春とともに終わろうとしていた夢から蘇った。

【付け・転じ】打越を舟遊びの余興とし、その有限性を詠んだ前句を、病人の幻覚に取り成した。

【自註】爰(こゝ)はまた人の正気うせて、夢のごとく、しれぬ山辺(やまべ)に心も闇く、*昼の花夜と成り、夜る見る月の昼と成り、引息(ひくいき)のたよりなき時、其の者の名を声々に呼び、「*いけやれ」「*針立よ」「*人参よ」「湯よ、水よ」とさはぎしに、目を明けて、「是はかしましや、何事ぢや」といふ。
*昼の花夜と成り…=〈春の花も闇となし、秋の月を昼となし…〉『好色五人女』(巻一)に同じく精神朦朧状態を表す。 *いけやれ(生けやれ)=生き返れ。 *針立(はりたて)=鍼医者。 *人参=高麗人参。

【意訳】ここはまた病人が人事不省に陥り、夢幻の境をさまよい、死出の山路に心も暗く、昼間の花が夜になり(消え)、夜に見る月が昼になり(失せ)、呼吸が弱くなる時、その病人の名を口々に呼び、「生き返れ」「鍼医者を」「朝鮮人参を」「お湯を、水分を」と騒いだのに、目をあけて「これうるさいぞ、何事だ」と言う。

【三工程】
(前句)花夜となる月昼となる

 正気うせ心も闇き死出の山     〔見込〕
    ↓
 生けやれと鍼よ水よとさはぎたて  〔趣向〕
    ↓
 名を呼れ春行夢のよみがへり     〔句作〕

前句を病人の幻覚に取り成し〔見込〕、〈看病する人々はどうするか〉と問いながら、その騒ぎ立てる様子を描写し〔趣向〕、〔春ととも逝かんとする病人が一転して蘇生する〕のを詠んだ〔句作〕。

 
そういえば『男色大鑑』にも、息もたえだえになった人にニンジンや水を与え、蘇生させるというエピソードがありましたが、ニンジンって朝鮮人参のことですよね。
 
「そや高麗人参は滋養強壮にええんや」
 
でも昔から高価ですよね。
 
「せやから〈人参飲んで首縊る〉いう諺があってな。高価な特効薬で病を治しても、その借金で首が回らんようになるいう教訓や」
 
なんか浮世草子のオチみたいですね。
 
「そら諺や俳諧は浮世草子のルーツみたいなもんやからな」
 
ルーツ? 外来語?

「呵々、前にそなさんから教わった横文字、いちど使うてみたかったんや」

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