眠る人なき十七夜待 打越
師恩しる枕に替る薬鍋 前句
願ひに秋の氷取り行く 付句(通算56句目)
師恩しる枕に替る薬鍋 前句
願ひに秋の氷取り行く 付句(通算56句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】三ノ折・表6句目。 秋の氷(秋)=季節外れの氷。三ノ折・表の月の座(秋)を意識したか。なお二オ一句目(23句目)に氷の音(春)があるが、同字は三~五句去り。
【句意】(病人の)願いに従い、秋の氷を取りにゆく。
【付け・転じ】前句の看病する人たちが、病人の求めに従い、季節外れの氷を探しに行くと想定した。
【自註】*長病の人、かならず食物に時ならぬを好む事也。**唐土の親仁も雪中の竹の子このまれし。是、***八十三の三つ子のごとし。前句、病人も口中のねつにして、「秋の氷もがな」といはれしを、思ひ/\に手分けにして、名山・高山にたづね入り、願ひをまゐらせたる****心行也。人、まことあれば、天、是をめぐみ給ひ、たとへば****二月の松茸にても世にないといふ事なし。
*長病(ちやうびやう)の人=長期療養の患者。 **唐土(もろこし)の親仁も~=『二十四孝』「孟宗」の故事。老母のために雪中の筍を求めた。親仁は誤り。 ***八十三の三つ子=子供のように耄碌した態の諺。 ****心行(こゝろゆき)=内容主義の心付(今栄蔵著『初期俳諧から芭蕉時代へ』笠間書院、2002年)。 *****二月の松茸=季節外れの食べ物の例。
【意訳】長患いの人はたいてい季候外れの食べ物をほしがるものである。支那の『二十四孝』のおやじ(正しくは老婆)も雪中の筍を所望した。これは耄碌して三歳児になったようなものだ。前句の病人も、口中の高熱によって「秋の氷があれば」と言ったのを、みな思い思いに手分して、名山や高山に訪ねて行き、願いの氷を進呈した(そんなことを想定した心行の)付け方である。人に誠意があると、天はこれをお恵みくださり、たとえば二月の松茸でも浮世に得られないということはない。
【三工程】
(前句)師恩しる枕に替る薬鍋
時ならぬもの好む病人 〔見込〕
↓
口中さます秋の氷を 〔趣向〕
↓
願ひに秋の氷取り行く 〔句作〕
前句の病人が季候外れの食べ物を欲しがると見なし〔見込〕、〈どのようなものを欲しがるのか〉と問うて、口中の熱をさます秋の氷とし〔趣向〕、その季節外れの氷を看病する人たちが探しに行くと想定した〔句作〕。
鶴翁は浮世草子『本朝二十不孝』で「雪中の筍」は八百屋にあると書いたり、独吟『大句数』で〈どこにあらうぞ雪の筍〉と口語で詠んだりしてますね。そういえば近代でも〈約束の寒の土筆を煮て下さい〉という口語の名句がありますよ。
やはり上五を使いたくなりますか。
【句意】(病人の)願いに従い、秋の氷を取りにゆく。
【付け・転じ】前句の看病する人たちが、病人の求めに従い、季節外れの氷を探しに行くと想定した。
【自註】*長病の人、かならず食物に時ならぬを好む事也。**唐土の親仁も雪中の竹の子このまれし。是、***八十三の三つ子のごとし。前句、病人も口中のねつにして、「秋の氷もがな」といはれしを、思ひ/\に手分けにして、名山・高山にたづね入り、願ひをまゐらせたる****心行也。人、まことあれば、天、是をめぐみ給ひ、たとへば****二月の松茸にても世にないといふ事なし。
*長病(ちやうびやう)の人=長期療養の患者。 **唐土(もろこし)の親仁も~=『二十四孝』「孟宗」の故事。老母のために雪中の筍を求めた。親仁は誤り。 ***八十三の三つ子=子供のように耄碌した態の諺。 ****心行(こゝろゆき)=内容主義の心付(今栄蔵著『初期俳諧から芭蕉時代へ』笠間書院、2002年)。 *****二月の松茸=季節外れの食べ物の例。
【意訳】長患いの人はたいてい季候外れの食べ物をほしがるものである。支那の『二十四孝』のおやじ(正しくは老婆)も雪中の筍を所望した。これは耄碌して三歳児になったようなものだ。前句の病人も、口中の高熱によって「秋の氷があれば」と言ったのを、みな思い思いに手分して、名山や高山に訪ねて行き、願いの氷を進呈した(そんなことを想定した心行の)付け方である。人に誠意があると、天はこれをお恵みくださり、たとえば二月の松茸でも浮世に得られないということはない。
【三工程】
(前句)師恩しる枕に替る薬鍋
時ならぬもの好む病人 〔見込〕
↓
口中さます秋の氷を 〔趣向〕
↓
願ひに秋の氷取り行く 〔句作〕
前句の病人が季候外れの食べ物を欲しがると見なし〔見込〕、〈どのようなものを欲しがるのか〉と問うて、口中の熱をさます秋の氷とし〔趣向〕、その季節外れの氷を看病する人たちが探しに行くと想定した〔句作〕。
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「なるほど、えー句やな。わしやったら、〈約束の二月の松茸手にもがな〉、〈約束の秋の氷を口元へ〉とかやろ」
やはり上五を使いたくなりますか。
「そやな、むかし女房が病で亡うなった折、約束を果たせんかったよってな……」
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