相子智恵
一応は在る花貝の蝶番 青木ともじ
句集『南のうを座』(2024.11 東京四季出版)所収
〈花貝〉は桜貝のこと。小さく薄い桜貝に、これまたちぎれそうに儚い蝶番がある。そう、〈一応は在る〉のだ。桜貝の貝殻を拾う時、蝶番が残っているもののほうが少ない。
掲句、〈蝶番〉を見つけたのが発見である。もちろん写生的な〈一応は在る〉という発見が優れているというだけではない。「花」と「蝶」という言葉のつながりの発見でもあるのだ。そう考えてみると掲句は「桜」ではなく、やはり「花」であるべきなのだな、と思う。
掲句の前の句は、次の一句だ。
干す漁具の中に花貝残りけり
この句の実直さがあるから、掲句の発見が上滑りしない、という句集の妙味もあった。
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