2010年7月31日土曜日

●ホトトギス雑詠選抄〔29〕滝・上

ホトトギス雑詠選抄〔29〕
夏の部(七月)・上

猫髭 (文・写真)


滝の上人あらはれて去りにけり 原城 昭和2年

滝の上(うへ)に水現はれて落ちにけり 後藤夜半 昭和4年

夜半の句が余りにも有名なので、その2年前に詠まれた原城(筑後の俳人とのみで詳細不明。島原の乱の原城に因んで「はらじょう」という俳号か)の句が夜半の句のパロディのように見えてしまう。虚子編『新歳時記』の例句にも夜半の句が7句目に引かれているのに、原城の句は33句目に出て来るので、『ホトトギス雑詠選集』を読んでいない読者には、例句は年代順に普通は沿うと思うから、原城の句が夜半の句を踏まえて水の代わりに人を出した面白さで虚子は採ったのかと思ってしまうだろう。

実はわたくしも『新歳時記』を先に読んでいたので、パロるなら「滝の上人あらはれて落ちにけり」だな、などと馬鹿なことを考えた。わたくしの郷里茨城県には人気NO.1の袋田の滝があるし、遠足には隣県の栃木県の華厳の滝に行く習いだったから、特に華厳の滝は藤村操の「巖頭之感」という哲学的な遺書で有名な自殺の名所なので、関係妄想症のように、「瀧をのぞく背をはなれゐる命かな 原石鼎」「飛込の途中たましひ遅れけり 中原道夫」「たましひに遅れていのち泳ぎけり 角川春樹」などと、滝壺で泳げて良かったというところまで妄想してしまう。

夜半の句は「ホトトギス」初出の表記を挙げたが、これだけ有名な句なのに、表記に異同があり、訓みにも異同がある。『新歳時記』の表記は、

瀧の上に水現れて落ちにけり

である。また、同時に「雑詠選」に採られた、

滝水の遅るゝごとく落つるあり

も、『新歳時記』の表記は、

瀧水のおくるゝ如く落つるあり

である。「滝」も「瀧」も古くからあった字なので、どちらでもいいようなものだが、垂直に一本ずどんと落ちるのは「滝」で、横に広がる瀑布的な感じが「瀧」のように個人的には勝手なイメージがある。比較的に小さなのが「滝」で日本三名瀑のように大きなのが「瀧」というイメージを持っている人もいるが、ナイアガラやイグアスの規模になると、「瀑布」としか言いようが無いとも思う。

また、「滝の上に」の訓みは、定型に収めて「滝の上(へ)に」と訓むか「滝の上(うへ)に」と字余りで訓むか、意見が分かれるが、「滝の上(うへ)に」と訓むのが正しいようである。字余りの方が水が満々と盛り上がる様が見えるとわたくしは思っていたが、夜半が原城の句を知らなかったはずはない。夜半が原城に敬意を表して、同じく「滝の上(うへ)」と訓んだという気もする。

(つづく)

2010年7月30日金曜日

●酒場

酒場

銀河系のとある酒場のヒヤシンス  橋 閒石

酒場には紙の桜の弥生かな  吉屋信子

打水の向ひのバーに及びけり  鈴木真砂女

螻蛄更くる酒場にふふと嗤ひ声  中島斌雄

雪降るとラジオが告げている酒場  清水哲男


2010年7月29日木曜日

●ジュースバー 中嶋憲武

ジュースバー

中嶋憲武

地下街はひかりに満ちて水中花 さいばら天気

ユウジはいつもわたしを待たせる。今日も携帯に15分遅れるって、メールが入った。15分!このうら若き乙女の人生の貴重な時間を、一体全体なんだと思っているのだろう。傲慢無礼とは彼のことだ。

直射日光にこのまま晒されていると、光になって消えてしまうと思われたので地下街に入ることに決めた。本日の最高気温は34度だと予報士の渕岡さんが言ってた通り、猛暑だ。地下街は灼熱の地上よりも、ひんやりとしていい気持ち。予報士の渕岡さんは、毎日センスのいいものをお召しになっている。どこで買っているのだろう。かわいいショップを覗きながら、あれこれと洋服をみた。

喉が乾いたので、ジュース・バーでキウイジュースを飲んだ。よく冷えていて、天国な気分なり。着信。ユウジからだ。ユリ、ごめんな。いま着いた。せっかく天国気分なのに。もうちょっと待たせてやろう。頬をへこませて、キウイジュース飲みながら、そう思った。


2010年7月28日水曜日

●反省会 中嶋憲武

反省会

中嶋憲武

はつなつのコップの跡は水である 笠井亞子

負けた。完膚無きまでに、ものの見事にやられたのだ。1セットも取れなかった。いくら練習試合とは言え、わがチームはこれでいいのだろうか。

反省会をしようと、みんなで「大判屋」へ入った。みんな負けたのに、明るい。くやしがっているのは、わたしだけだ。セッターのリョウコなんて、ひとつもいいトスを上げなかったのに、クリームあんみつが甘過ぎると言って、大笑いしてる。中学最後の市内大会をどう思ってんのだろうか。わたしは内向的な性格なので、そんな建設的な発言は出来ない。
 
キャプテンのヒロミはチェリオのグレープを飲んで、「コックリさん」をしようと言い出した。ちょっと、反省会はどうなってんのよ、と心のなかで言った。

ヒロミ自ら指を10円玉の上に置いて、お伺いを立てている。みんな真剣な顔だ。バカみたいと、わたしは思った。そう思った時、チェリオが半分残っているコップが、すーっと動いた。