毛皮夫人プロファイリング〔2〕
43歳、外大卒、夫は大手製薬会社勤務 (下)
近 恵
≫承前
大学入学とともに上京した彼女は、フランス語を専攻し、いよいよフランス映画が好きになる。映画同好会のサークル活動で知り合った後に結婚することとなる早稲田の二歳年上の男性は、遊び仲間の一人であった。
当時はバブル真っ只中。田舎の慣習から逃れ開放的となった彼女は、バイトで稼いだ小遣いを持って六本木のディスコで朝まで踊ったりする普通の女子大生であった。離婚した父が白系ロシア人であったため、彼女は日本人離れをしたような容貌。スタイルも良かったため、流行の雑誌の読者モデルなどをしたりもする。
いくつかの映画のような恋をするが、それはどこか嘘めいていて、いつも孤独な気持ちになり破局する。理想は理想のまま現実を受け入れざるを得ないという忸怩たる思いで過ごす日々。いつしかそれも当たり前となった社会人2年目の時、友人の結婚式で現夫と再会。映画の話で盛り上がり、何度か会うようになるうちに恋に落ちる。映画の中のような恋ではなかったが、温かく包みむような夫に、やっと自分の居場所が出来たような思いを得、結婚を決める。
新婚気分も抜けきれぬ頃妊娠し、仕事をやめる。無事に第一子を出産、娘であった。育児に終れる日々。ほどなく第二子を妊娠し、出産。息子であった。
娘、息子とも中学受験をさせ、私立の中学へ進学を決める。これでこの後の受験の心配はさほどでなない。息子の中学進学と同時に夫がアメリカに単身赴任となる。子供の受験が終わり、肩の荷が下りたところに夫の単身赴任。彼女はふっと心に穴があいたような寂しさを覚える。
自分の時間が持てるようになった彼女は、週に三日間、近くのスーパーにレジ打ちのパートへ出かけるようになる。と同時に、すこしふくよかになってきたかと、テニス教室に通いはじめる。子供を置いて夜遊びも時々するようになる。
大学生の頃には入れなかった六本木の落ち着いたピアノのあるバー。そこで、売れないピアニストとまさにフランス映画のような恋に落ちてしまい、阿佐ヶ谷に住むその男の家へ時々通ってみたりもするが、所詮遊びの恋である。ほどなくその恋は終わり、新しく来たテニスのコーチへと乗り換えようとするも、なにしろテニスは初心者。小学生の頃にあこがれたお蝶夫人のようには行かず、筋肉痛となり、コーチに無様な醜態をさらし、その恋は実る前から諦める。
来週は夫が単身赴任先から久しぶりの休暇で帰ってくる。ふと現実に帰り、彼女はなぜか夜中にオカリナなんぞを吹いてみるのであった。
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