おんつぼ28
ジョルジュ・エネスコ
Georges Enesco/George Enescu
ピアノ四重奏曲第2番
関悦史
おんつぼ=音楽のツボ
田中裕明の「夜の形式」を読んでいて、直接には何の関係もないのだが夜ということで思い出した作曲家がいる。ルーマニアのジョルジュ・エネスコ(1881 - 1955)である(これはフランス語に拠った表記で本当は「ジョルジェ・エネスク」が正しいらしいのだが、ここでは慣例により「エネスコ」としておく)。
一般的には作曲家としてよりも名ヴァイオリニストとして知られている存在で、自作としては「ルーマニア狂詩曲」のみが親しまれているという印象、今後真価が見直され、広く親しまれるといったことになる可能性もおそらくあまりない。
才能がないわけではない。むしろ一代の異才というべきなのだが、リヒャルト・シュトラウス並みに豪華な響きの交響曲や管弦楽曲にしても、沈潜した内省的な作りの室内楽曲にしても、曲の構成や展開が極めて把握しにくく、その局面その局面でメロディーは確かにあるにもかかわらず、正直にいえば、何回聴いても全く覚えられないのだ。
夜ということから連想したのはもちろん室内楽曲の方で、最初、ピアノ五重奏曲を紹介しようとしたのだが動画が見当たらず、ピアノ四重奏曲第2番を取り上げることにした。
廉価盤レーベルのナクソスから出ているCDではこの2曲が1枚に収められているのだが、作風は互いによく似ていて、ロマン主義から出た作曲家の作とはいっても、己の情念にこもるというよりは、むしろ夜の草原を吹き渡る風のように自然の霊気に深いところで繊細精妙に寄り添い、幾多の音型がそれぞれ異なる精霊たちの情意を媒介して立ち上がりゆらめくとそれがおのずと曲をなすといった風情の成り立ちで、風になびく草一筋一筋の動きが記憶しにくいのと同じようにこれらの曲は記憶しにくいのである。
少々人間離れした感のある希薄さ、恭しさ、非定形性が作品に大きな霊気を親しげに呼び込んでいる点が田中裕明を連想させたのかもしれない。
幼児にとっての闇のような異世界現出度 ★★★★★
睡眠導入度 ★★★★
2 件のコメント:
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関さんからエネスコの話を聞き、興味をもちました。
某所でディヌ・リパッティが弾く「ピアノソナタ第3番」をかけてもらい聴いたのですが、にょろっとした感じが実におもしろい。
エネスコはリパッティの名付け親だったそうですね。
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