ホトトギス雑詠選抄〔37〕
秋の部(十月)菌
猫髭 (文・写真)
菌汁大きな菌浮きにけり 高崎 村上鬼城 大正8年
毒茸のかさのうてなに溜水 在芦屋 山口誓子 大正8年
茸山やすこし登れば大文字 東京 池内たけし 昭和2年
茸山や少年の日のみちはあり 在東京 松山桜人 昭和6年
塗盆に千本しめぢにぎはしや 大森 島田的浦 昭和6年
舞茸をひつぱり出せば籠は空ら 新潟 中田みづほ 昭和7年
茸乏しぼんやり伊吹山を見る 京都 松尾いはほ 昭和12年
みちのくの果ての温泉宿(ゆやど)の菌汁 在東京 梅田真三 昭和16年
雷鳴に怯えそれより茸は出ず 丹波 西山泊雲 昭和16年
火となりし松毬(まつかさ)ならべ菌焼く 岩手 駒ヶ嶺不虚 昭和18年
街道に茸ぶちまけて糶(せ)つて居り 舞鶴 至宏 昭和19年
ぶちまけし栗より茸のをどり出ぬ 大阪 寒木 昭和20年
盃にとくとく鳴りて土瓶蒸 阿波野青畝 昭和55年
湊大橋入口のヨークベニマルの地産コーナーに様々な茸が並び始めたので、歴代の虚子選「ホトトギス雑詠選集」から、わたくしの好きな茸の句を列挙してみた(最後の青畝の句のみ句集『不勝簪』から)。
茸もトマトも一年中あるので無季のようだが、やはり旬は歴然と舌に踊る。トマトは夏でないと太陽の味がしない。土瓶蒸は秋でないと盃がとくとく鳴らない。いや、ほんとの話。
茸の句を並べたら、茸汁が食べたくなったので作ることにしたが、これはうまい!と舌鼓を打った茸汁の記憶は、京橋の路地裏にある「魚がし」という小さな店で、昼の定食に出されたものだった。茸の香りが際立ち、歯応えといい、秋を噛んでいるという感じだった。とろりとした秋野菜の甘みの中に酸味があり、八方出汁と醤油と茸や里芋、大根、人参のハーモニーが絶妙だったので、毎日通ったが、飽きなかった。聞けば、味醂も酢も入れていないし、葛でとろみをつけているわけでもないとのことで、不思議に思い、かすかに浮いている脂がコツかと、鶏肉を入れているのかと聞けば、隠し味に鶏の脂を少々とのこと。それだけでこの旨みが出せるのかと、首をひねって茸汁を啜っていると、茸は軽く炒めて香りを引き出しますと教えてくれた。それだ!
それを思い出して、早速、椎茸、舞茸、湿地をざっくりと手で割いて、菜種油で香りが立つほどに炒め、滑子は軽く水洗いしてから八方出汁に入れ、塩で味を締め、色づくほど醤油をかけ回して味を含ませると、果たして母はお替りを所望した。
勿論、「魚がし」のプロの味には適わないが、茸を炒めてから入れるというひと手間で驚くほど旨みと歯応えを増すことだけは確かだ。しかし、これは「魚がし」の味であって、我が家の味ではない。猫髭料理帳にはもうひと工夫要る。
9月14日のNHKの「あさ一」の<夢の3シェフNEO 安くて便利「キノコ料理」>という特集で(註1)、日本料理:橋本幹造板前の「Wきのこの炊き込みご飯」で、天日に数時間さらして半干しにした茸は、香りが増し、独特のシコシコとした食感になると紹介しているのを見たことを思い出して、これだ!と思った。
ここのところ、雨と晴と交互でなかなか乾物日和にならなかったが、昨日今日と秋晴が続いたので、軒先の乾物ネットに入れて、椎茸と舞茸と湿地を干してから炒めて八方出汁に入れると、水分が飛んだ分、旨みが凝縮され、かつ出汁を存分に吸って、母は終始恵比寿顔だった。いただきました、☆☆☆です♪
この茸汁は味噌仕立てで里芋を増やせば芋煮になるし(牛と豚とで米沢と仙台はそれぞれの芋煮を誇る。どちらも旨し)、茨城では久慈の軍鶏肉を奢ると軍鶏汁になる。牛蒡の笹掻きと豆腐を潰して炒めて入れると巻繊汁(けんちんじる)になる。
半干しにした茸を炒めるだけで、茸汁だけではなく、茸のスパゲッティや茸御飯にも、茸うどんにも、勿論茸吟行もおいしい句になるかも。
掲出句はすべて臨場感があり、食欲を誘う句が多い。毒茸の句もあるから中ると恐いが、俳句だから中らないので安心して食べられる句ばかりである。
(註1):http://www.nhk.or.jp/asaichi/2010/09/14/01.html
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