チャコちゃんの街
中嶋憲武
むかしむかし「チャコちゃん」というテレビドラマがあった。大層な人気であったのでシリーズ化され、後にはチャコちゃんの弟の物語になり、更にその兄妹の物語になり、更に更にその妹に弟が出来てその弟の物語になり、20年ほどそのシリーズは続いた。
あまりに物語が続くので、ぼくは途中で飽きて自然に見なくなってしまったけれど、初期の「チャコちゃん」の一連のシリーズは面白く見ていた。チャコちゃんを演じていたのは、四方晴美という天才子役。あんまり可愛くない。四方晴美というと、茨木のり子の「女の子のマーチ」という詩をいつも思い出す。そのお父さん役が安井昌二、お母さん役が小田切みき。小田切みきは、黒澤明の「生きる」で志村喬の相手役をした少女だったと思う。この両親は四方晴美の実の両親だ。どんなドラマだったかまるっきり忘れてしまったんだけど、まあ概ね茨木のり子の「女の子のマーチ」の詩のようなドラマだったと思う。元気な女の子の元気はつらつな元気せきららドラマだ。
日曜日、南馬込を歩いた。南馬込は馬込文士村と言われ、三島由紀夫、萩原朔太郎、川端康成、北園克衛、川端茅舎、三好達治などの小説家、詩人、画家が住んでいた街だ。 坂の多い街で、坂を登ったと思ったら下り、下ったと思ったらまた登るというような街だ。ぼくは小さい頃、大田区池上に住んでいたので幼稚園は西馬込の幼稚園へ通っていた。南馬込からは第二京浜を挟んで反対側にあたる。
その日は池上本門寺にお参りして、本門寺裏の川端茅舎の住居跡を訪ねるのが目的だったのだけど、そこがいわゆる馬込文士村の端っこにあたっていたので、馬込文士村も歩いてみようかという事になったのだった。駅の大雑把な地図には、たくさんの小説家や詩人や画家の名前が載っていたが、どこに誰それの言われがあるのか歩き回ってみても皆目見つけられなかった。坂が多くって景色が面白いので、興味はもっぱらそちらに行ってしまって、シャッターをどんどん切ってしまった。カメラを持ち歩いていたのだ。そうやって写真を撮っているうちに、「チャコちゃん」のある回の話を思い出した。「チャコちゃん」のドラマが好きで再放送も見ていたが、話はとんと忘れてしまったのだけど、なぜかその回の話はうっすらと覚えていて、高台から低い街並を見ているうちにベランダに立つ微笑むお兄さんの話を思い出した。
チャコちゃんが、家の物干だったか二階の窓だったから眺めていると(望遠鏡で覗いていたのかもしれない)、遠い家の二階にカッコいいお兄さんが立って、チャコちゃんを見てやさしく微笑んでいる。チャコちゃんはそのお兄さんが気になり、お兄さんと遊んでいるところを夢想したりする。ある日、意を決してそのお兄さんの家のあるあたりを訪ね、お兄さんを見つける。だがそのお兄さんは二次元の人だったのだ。お兄さんはにこにこと微笑む看板だったのである。チャコちゃんがちょうどその家の前に立ったとき、看板のお兄さんはにこにこと微笑みながら、業者の手によって二階から引きずり降ろされているところだった。チャコちゃん悲しくなってお家に帰るといったような、記憶の断片をつなぎ合わせると、こういう話だったと思う。なぜ普通の家の二階のベランダにそんなお兄さんの看板が立っていたのか、突っ込みどころはあるでしょう。でも致し方ないのです。ぼくの記憶がそうなってしまっているんで。
ぼくは今でも高台に立って、低い街並の家々を眺めると、そのお兄さんのことを思い出し、チャコちゃんを思い出す。
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1 件のコメント:
驚きです。世の中広しとはいえ同じ方がいらっしゃったとは。僕もこの巻を忘れられずもう一度観てみたいのと、ご存じの方がいればタイトルを知りたいです。
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