2012年5月14日月曜日
●月曜日の一句〔神野紗希〕 相子智恵
相子智恵
光る水か濡れた光か燕か 神野紗希
句集『光まみれの蜂』(2012.4/角川書店)より。
個人的な好みだが、私は速度を感じる句が好きで、この句も愛唱してきた。
おそらく川辺の景ではなかろうか。修善寺温泉で見た桂川でも、奥多摩の渓谷でも、故郷の天竜川でも、山間を流れる川の上を、弾丸のように飛びまわる燕たちは、まるで「光の化身」のように見えた。燕は春の季語だが、これら春の遅い山峡で燕を見た時期はちょうど今時分で、だから私がこの句を思い出すのも、きまってこの頃なのである。
いま見ているのは日に照らされた水なのか、それとも川面に反射した光のほうなのか、それとも燕たちか。見ているものに思考が追いついていかないところに、光の速度を感じる。
この句は音もいい。「ひかる」「ひかり」「つばくら」および繰り返し挿入される「か」の音、その弾けるようなHやKの音には光の硬質さがあり、「る」「り」「ぬ」「ら」と口にこもる音には瑞々しく濡れた質感がある。
水、日光、燕たち。3つの瑞々しい濡れた光がキラキラと瞳の中に跳ね回って眩しい。それは命の光だ。
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