2012年5月18日金曜日
●金曜日の川柳〔小野多加延〕 樋口由紀子
樋口由紀子
おぼろ月人に隠れて跳ねてみる
小野多加延 (おの・たかのぶ) 1920~
空を見上げたらおぼろ月が出ていた。ふとうさぎのように跳ねてみたくなった。そういえば跳びはねるほどのことでもないのが、ちょっとだけ嬉しいこともあった。まわりを見渡したらちょうど誰もいない。小さく跳ねてみる。
こういうのってなんとなくわかる。別に何かあったわけでもなく、大それた理由はなくても、意味もなくにこっと笑ってみたいときとか、ちょこっとだけなにかしたいときがある。しかし、人前で急にそんなことをしたら驚かれる。びっくりされるだけならまだいいが変人扱いされかねない。
小野の川柳は人生の飄々とした味わいがある。〈住む町に羊羹屋あり老いていく〉〈ばあさんを置き去りにして蛍追う〉〈正直に笑える頃に歯が欠ける〉 「自分のなかにある人間の愚かさ、哀しさ、可笑しさなどのペーソスのある句を作りたい」とあとがきに書く。『とうがらし』(私家版 2010年)所収。
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