2013年6月7日金曜日

●金曜日の川柳〔川上日車〕樋口由紀子



樋口由紀子







深みとは何水甕に水のなき

川上日車 (かわかみ・にっしゃ) 1887~1959

水甕に水は普段は入っている。ところが水のない水甕を見た。もちろん、そういうこともある。しげしげとからっぽの水甕を眺めていたら、水甕の深さというものに気づいた。水甕に水があるときには深さは考えもしなかったのに人の心とは不思議なものである。水のない水甕だからこそ際限の知れない深さを感じたのだろう。人の心理状態、心の動きが見える。

川上日車は明治39年に小島六厘坊が創刊した関西で最初の柳誌「葉柳」の同人。「葉柳」には西田当百、木村半文銭、麻生路郎など錚々たるメンバーが集まった。〈猫は踊れ杓字は跳ねろキリストよ泣け〉〈夜具を敷く事が此の世の果てに似つ〉 川柳の遊戯性を否定し、短詩型文学を目指し、多彩な作品と鋭い柳論を遺した。〈柿を知らないカール・マルクス〉〈厠にゐたら出たよ・念仏〉七七句もおもしろい。



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