2014年3月24日月曜日

●月曜日の一句〔松村昌弘〕相子智恵

 
相子智恵







花冷えに何か忘れし思ひする  松村昌弘

句集『白川郷』(2014.2 角川学芸出版)より。

私は忘れっぽいので〈何か忘れし思ひする〉は季節を問わずたびたびあるのだが、この句の〈何か忘れし思ひする〉は日々の物忘れのような単純なことではなく、もっと深いものが感じられる。それはひとえに〈花冷え〉の季語のせいであろう。

桜の花の咲く頃、急に寒さが戻る〈花冷え〉。その言葉の響きの美しさや、夢のような桜に酔った心が、急にハッと引き戻されるような寒さであること。それが夢の世界に何かを忘れてきたような感覚にさせるのである。季語が活きた一句である。

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