2014年9月10日水曜日

●水曜日の一句〔辻まさ野〕関悦史



関悦史








子を呼びに出てたちまちに秋の暮   辻まさ野

外で遊んでいて呼び戻される子供の立場ではなく、親の立場からの句で、ノスタルジックな過去回想の世界ではなく、いま現在の生活が詠まれているようだ。

子を呼びに出てちゃんと連れて戻り、その後に「秋の暮」が到来したのならよい。しかし句からはその辺りは確定できず、子を見つけられぬままに釣瓶落としに日が落ち、闇が殺到するという不穏なイメージも張りついている。

三橋敏雄の《顔古き夏ゆふぐれの人さらひ》なども思い浮かぶが、これとも違って古い昔のことでもなければ、人さらいという明確な悪人のイメージもない。目を離されていた子と親の間に割り込み、押しつぶすような「秋の暮」があるばかりだ。

家族との暮らしを常に秘かに押し包んでいる破局の予兆や、この世にあることのものさびしさに、日常性を手放さないままさりげなく触れている句である。


句集『柿と母』(2014.4 角川学芸出版)所収。

0 件のコメント: