2015年11月2日月曜日

●月曜日の一句〔杉山久子〕相子智恵



相子智恵






小鳥来る旅の荷は日にあたゝまり  杉山久子

句集『泉』(2015.9 ふらんす堂)より

鄙びた無人駅でのひとコマを想像した。

日に数本しか来ない列車を待っている。ホームには小さな屋根しかなく、その屋根が作る日陰で秋の案外強い日差しを避けながら待っていると、渡り鳥の小鳥たちがやって来た。海を渡ってきた小鳥たちと、旅に出た自分とが重なる。

やっと来た電車に乗ろうと、旅行鞄を持つと温かくて驚いた。いつの間にか太陽は傾きを変え、足元に置いた旅行鞄は日向に出ていたのだ。温まった荷物を膝に抱きながら、晩秋の列車の旅を続ける――。

〈旅の荷は日にあたゝまり〉の温かな感触、〈あたゝまり〉の踊り字を使ったレトロな表記、小鳥の可愛らしい明るさ……それらが重なって、掲句にはどこか懐かしさが漂う。個々人の「旅の記憶」を呼び覚ましてくれる懐かしさだ。掲句から読者の脳裏に浮かぶ物語は、おのずと自分の旅の思い出と重なるから、私の鑑賞とはまったく違う場面となるだろう。

その懐かしさをもって、ふたたび旅に出かけたくなるような気持ちにさせる一句である。

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