2017年4月24日月曜日

●月曜日の一句〔小川軽舟〕相子智恵



相子智恵






耳遠き父を木の芽の囃すなり  小川軽舟

「俳句」5月号(角川学芸出版 2017.04)

加齢によって耳が遠くなることは、ハンディキャップでありネガティブな要素ではあるのだが、〈木の芽の囃すなり〉の、父と木の芽の交流にはファンタジーな味わいがあって、お伽噺の一場面のように感じられてくる。結果として、一句は明るい印象に着地している。

木の芽が囃すというのは、聴覚ではなく視覚に訴える。だから父の現実として無理なく読めつつ、「囃す」という擬人化によって一気に詩の世界、童話的世界に誘われるのだ。

花咲か爺ではないけれど、お爺さんと木の精霊は不思議に似合う。現実に執着せず次第に童話的世界に踏み入れていく老人としての父と、それを肯定しているであろう子の関係もまた、静かに明るい。

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