樋口由紀子
すったもんだのあげくに顔を差し上げる
加藤久子 (かとう・ひさこ) 1939~
「擦った揉んだ」、「擦る」は「物と物が力をこめて触れ合わす」、「揉む」は「両手の間に挟みこする」が合体して、「もつれが起こって争う」「ごたごたもめるさま」になる。とんでもない言葉である。
「すったもんだ」は生きているとどうしても起ってしまい、避けては通れない。それにしても顔を差し上げてしまうなんて、そんな「私」とはなんなのだろうかと思った。「すったもんだ」の事態を自分の身体で対処して、自分を守る。突拍子である。「すったもんだ」と「顔を差し上げる」を同じ俎上にあげているところにアナーキーさを感じる。
もう顔まで差し上げてしまったのだから、私は新たな顔でなにごともなかったように平気な顔で暮らしていく。現実を乗り越え、生きにくい世の中を遣り過していく。人間のふてぶてしさとたくましさ感じる。「MANO」20号(2017年刊)収録。
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