2020年9月4日金曜日

●金曜日の川柳〔金築雨学〕樋口由紀子



樋口由紀子






虫に刺されたところを人は見せたがる

金築雨学 (かねつき・うがく) 1941~2020

夏が嫌いだ。暑いのも苦手だけれど、それよりも虫が困る。私は人一倍虫に好かれている。幾人かでいる時も私だけに虫がぶんぶんと飛び回り、まとわりつく。上高地のかっぱ橋の上では蜂に刺された。たくさんの人が行き交う中で、蜂は私めがけて飛んできて、刺して、また飛んでいった。私の周りから人がぱっと散った。今も身体のあちこちに刺された痕がある。ここもあそこもかまれたと見せたいくらいだ。

どうしてそんな行動を取りたいのだろうか。刺された痕はみっともないものである。関西のおばちゃんたちが安く買ったものを自慢するときに言う「いくらやったと思う?」に似ているような気もする。自慢にはなりそうもないことを自慢したがり、見せられないものを見せたがる。「見せたがる」が言い得て妙。心の機微を言い当てている。人は可笑しい。金築雨学も亡くなってしまった。『現代川柳の精鋭たち』(2000年刊 北宋社)所収。

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