2021年1月15日金曜日

●金曜日の川柳〔榊陽子〕樋口由紀子



樋口由紀子






糊余るこの世に昆虫の欠片

榊陽子 (さかき・ようこ)

小学生の頃に夏休みの課題に昆虫採集があった。9月1日の登校日に多くの児童が自慢気に持ち寄り、教室に展示された。今思えば、夏休みは昆虫の受難時期だった。今でも、そんな宿題はあるのだろうか。掲句を読んでそのときのことを思い出した。

昆虫は虫ピンで止めるが、糊を使うものとして読んだ。「糊余る」で切れるのではないだろう。虫を止めるための糊は残っている。しかし、標本にできる、完璧な姿の昆虫はもうなくて、昆虫の欠片だけが残っている。糊が余る事実からのそのような認識だが、普通はこのようにこの世を想起しない。私たちも昆虫の欠片と変わりないのだろう。「Picnic」(1号 2020年刊)収録。

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