2021年6月4日金曜日

●金曜日の川柳〔石部明〕樋口由紀子



樋口由紀子






老人がフランス映画へ消えてゆく

石部明 (いしべ・あきら) 1939~2012

登場人物の老人が映画の中で消えていったというのではないだろう。フランス映画そのものに老人が消えていく。なにげなさそうだが、とんでもないことである。「フランス映画」は非日常ではなく異世界とし、消えていく場にふさわしいものとして捉えている。

石部の想像は哀しく、それでいて奇妙である。ふらふらと何処かへ行き、ふらっと消える。そんなふつふつと湧いてくる、不可解な混沌を抱えている。この老人は妖しく、得体が知れない。一抹の寂寥感とそれ以上の昂揚感も滲ませている。この世のやっかいさ、日常のどこかが壊れていくような感覚で、幻想的なイメージの世界に句を引っ張っている。余情が詩情となっている。『遊魔系』(2002年刊 詩遊社)所収。

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