2022年2月7日月曜日

●月曜日の一句〔西川火尖〕相子智恵



相子智恵







認証に差し出す瞳冬旱  西川火尖

句集『サーチライト』(2021.12 文學の森)所載

春は立ったが、冬の最後の句として掲句を。

デジタル社会の防犯システムの進化は早く、つい最近だと思っていた暗証番号やパスワードの時代から、すでに生体認証によるセキュリティも生活に馴染みのあるものとなった。
掲句は、人間の瞳の中の「虹彩」で本人確認を行う「虹彩認証」を詠んでいる。他にも「顔認証」や「指紋認証」「静脈認証」「声紋認証」など様々な生体認証技術があり、私自身もスマートフォンのロック解除には指紋認証を使っている。確かに便利ではあるが不思議なものだ。現代美術展「これも自分と認めざるをえない」が行われたのも、もはや10年以上も前のこととなった。

掲句、〈認証に差し出す〉の〈差し出す〉が見事な批評であり、哀しみである。私たちは私たち自身を機械に認証してもらうために、自分の一部である〈瞳〉を生贄のように差し出すのだ。しかし何のために?――私が私であることを、私以上に知らなければならない社会のために。その薄気味悪さは、カラカラに乾いた〈冬旱〉の空気のように、私たちの心と体から水分を奪い去っていく。

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