2023年5月22日月曜日

●月曜日の一句〔井出野浩貴〕相子智恵



相子智恵






鮎焼かれなほ急湍をゆくかたち  井出野浩貴

句集『孤島』(2023.5 朔出版)所収

〈急湍(きゅうたん)〉は、流れの速い瀬。早瀬のことだ。考えてみれば、鮎の塩焼きをつくる際に、まるでまだ生きて泳いでいるかのように、ぐねりと曲げた形で串に刺して焼き、その形をとどめるというのは、〈海鼠切りもとの形に寄せてある 小原啄葉〉の刺身の並べ方と並んで、本当は残酷なことであると、このような句によって突きつけられる。活き活きとした新鮮さの演出が、死んで私たちの食べ物となったものに対して施されるという矛盾。

それでも、ただ「泳ぐ」という認識の範囲で書くのではなくて、〈急湍をゆく〉と想像したのがいい。岩の間を縫って身をくねらせながら急流を素早く泳ぐ時こそ、鮎にとっては疲れるけれど最も楽しい時間だったのかもしれないと思う。〈なほ〉の一言にも、哀しみが際立つ。

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