
湊圭伍
※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。
深呼吸してから海を吐き出そう
落合魯忠
海を体内に溜め込むには、長い時間がかかりそうだ。この句の場合とくに、わざわざ深呼吸してから吐き出すほどの量なのだから相当である。ただ海をたびたび訪れる程度ではなく、海上に浮かびながら久しい過ごすことで、波のうねりが少しずつ、しかし着実に全身に染み入った結果という風だ。
そうして溜まりに溜まった海を吐き出すに至った経緯も気になるが、句はそれは語らない。かろうじて「吐き出そう」に決意が読み取れる。そこには吐き出すことへの無念の思いが、あるいはそれとは逆に、海の重みからついに解放されることへの安堵が伴っているだろうか。句の言葉からはどちらでもないように感じられる。いや、どちらでもあるのか。
あえて読みを絞り込むと、かすかな明るみの感覚が、そのかすかさにも関わらずくきやかに表現されていると思う。その明るみの中に、海を吐き出し、過去を手放す瞬間、この人物の脳裏にひらめいた数多の光景を思う。
落合魯忠『句集 オンコリンカス』(私家版)より(「オンコリンカス」は、魚のサケ科の学術名)。
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