
暮田真名
泣けないな地べたに夜と書かれても 我妻俊樹
夜とは空の現象である。西の空が茜色に染まり、星がちらつき、東の空が白みはじめるまで、地面は空につられて暗くなったり明るくなったりしているだけだ。地面に書かれた「夜」は、信憑性がなく、嘘くさい。
「地面」ではなく「地べた」なところもいい。この句の肝は「地べた」だろう。「地面」よりも話し言葉的で、ひんやりと湿った感じがする。
「泣けないな」に関しては、わたしは言うことがない。「そうだろうな」と思う。地面に夜と書いてあるだけでは、泣けないだろう。地面に夜と書いてあるという、やや思わせぶりな事態への態度が、冒頭で既に決定されているのだ。例えばここに「泣ける」と書いてあったなら、話は違う。泣いている人の内面へ、関心が誘われる。しかし、泣けないのだ。句が、読者を引き留めようとしていない。「言うことがない」とは、素晴らしいという意味だ。
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