2026年10月2日金曜日

●金曜日の川柳〔我妻俊樹〕暮田真名



暮田真名





泣けないな地べたに夜と書かれても  我妻俊樹

夜とは空の現象である。西の空が茜色に染まり、星がちらつき、東の空が白みはじめるまで、地面は空につられて暗くなったり明るくなったりしているだけだ。地面に書かれた「夜」は、信憑性がなく、嘘くさい。

「地面」ではなく「地べた」なところもいい。この句の肝は「地べた」だろう。「地面」よりも話し言葉的で、ひんやりと湿った感じがする。

「泣けないな」に関しては、わたしは言うことがない。「そうだろうな」と思う。地面に夜と書いてあるだけでは、泣けないだろう。地面に夜と書いてあるという、やや思わせぶりな事態への態度が、冒頭で既に決定されているのだ。例えばここに「泣ける」と書いてあったなら、話は違う。泣いている人の内面へ、関心が誘われる。しかし、泣けないのだ。句が、読者を引き留めようとしていない。「言うことがない」とは、素晴らしいという意味だ。

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