おんつぼ41
可愛いいひとよ
クック・ニック&チャッキー他
小早川忠義
おんつぼ=音楽のツボ
「歌は世につれ、世は歌につれ」などという言葉があります。戦前から歌い継がれている演歌などの曲の前振りに使われる泥臭いフレーズですが、現在の私たちの耳に触れやすい洋楽じみた曲にも歴史があり、あな がち冒頭の言葉が当てはまらないとは限らないようです。
女「ねえねえ、『可愛いいひとよ』よっかさぁ、『Get Ready』、ある?」
男「Chicの『おしゃれフリーク』ならあるぜ?」
女「『メリー・ジェーン』は?」
(とんねるず『角田さんのテーマ』アルバム『仏滅そだち』より)
石橋貴明と木梨憲武のコンビ、とんねるずがコントで世に出始めたのは80年代。この頃のディスコの主流はユーロビートに移っており、先述のやりと りに出てくる曲は既に前時代的 なものとして「解る人には解るギャグ」だったのです。しかしながらその時代の曲にも良さがあるんだというリスペクト的な主張として引っ張り出され たものでもありました。それは後年リリースされる彼らの歌唱曲「嵐のマッチョマン」や、自らの出演するテレビ番組でディスコダンスのコンテス トを主催したりなどで明かされることになります。
筆者が最初に聞いた『可愛いいひとよ』のメロディーは山瀬まみによってカバーされたものだったので、こんな曲で踊ることが出来たのかと首を捻って ばかりだったのですが、最近になってYouTubeでクック・ニック&チャッキーの「原曲」を聴く機会を得て、大きく首肯するに至りました。
ウエスタンやグループサウンズから所謂ソウルサウンドへ大きくシフトした、70年代のディスコサウンドは、曲のノリが流行りに乗っていることは勿 論、その曲に合ったステップが雰囲気を盛り上げるか否かも支持を受ける大きな鍵になりました。それをマスターすることが「仲間入り」への第一歩。 そのステップの違いによって仲間の集団がいくつも分かれたとか。この歌は歌の内容云々より、そのうちやってくるチークタイムになるまでに相手を見 つけようとした青年男女が近付く良い切っ掛けの曲だったに過ぎないのですが、集団の結束力を大きくする道具として作用したものだったのでした。
先述の通り80年代になってディスコミュージックの主流が変わったことにより、忘れかけられていたこの曲も、2000年代に入りかつての時代に良 く踊っていた世代として鈴木雅之とブラザー・コーン、そして他ならぬ木梨憲武の組むユニットによってカバーされ、息を吹き返すことになります。忘れかけていたステップや古臭いと切り捨てられていたものに対する再発見への目、それに「良いものは良い」とこだわり続ける気概は、常に持ち続け ていたいものです。
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