2013年12月11日水曜日
●水曜日の一句〔佐々木貴子〕関悦史
関悦史
中空の0おごそかに回転す 佐々木貴子
場所は「中空」である。上下前後左右にはさしあたり何もなく、何によっても支えられていない。
「0」も非実体であり、中空のなかの非実体が描かれていることになるが、それはしかし回転という運動性と動因をも持っている。
実体のない中の動きとなると中観仏教の「縁起」や「空」を連想させられもするのだが、この句の特徴はそれを寓意を背負った実体的イメージとしては表しておらず、代わりに「0」という記号を直に現前させてしまっていることだ。
記号が物と同じ実体感をもって現前するこの夢の中のような非-世界になめらかに量感を与えているのが「おごそかに」だが、この「おごそかに」は同時にちょっとユーモラスでもあり、この光景を目にした語り手の身体と戦慄を思うと、ニュー・ウェーブに影響を受けた川又千秋や、言語実験的作品を書いていた頃のかんべむさし等のシュルレアリスティックなSF作品に通じる味わいも出てくるのである。
こんな「世界の真理」の如きものが安手のガジェットよろしく目の前に在って回転していることの、陰鬱でしかし突き抜けた啓示的感覚。それはSF小説やアニメの表現の数々に通じるところを持ちながら、そうした想像力の基底に触れているようでもあり、どこか懐かしさをも感じさせる。
なお句集『ユリウス』はこの他にも《宇宙船無音で滑る枯野道》《箒木に百億の昼絡まりぬ》《焼鳥の串一本が宇宙の芯》等、SF的なものとの親和性を示す句を少なからず含んでいる。
句集『ユリウス』(2013.11 現代俳句協会)所収。
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