2014年6月30日月曜日

●月曜日の一句〔神尾季羊〕相子智恵



相子智恵







虹立てり急に食べたき海のもの  神尾季羊

「鷹の百人 鷹年譜」(2014.7 鷹俳句会・鷹第五一巻第七号付録)より。

唐突に出て短時間で消える美しい虹。その〈虹立てり〉のスピード感と、〈急に食べたき〉という欲望の性急さが響きあい、心に残る。〈海のもの〉だから魚介類だろうが、ひとつの魚なり貝なりの名前を示さずに〈海のもの〉と大づかみにしたことで、心の中には広大な海がきらきらと広がり、それが虹の光と輝きあって、この句の美しさを際立たせる。すると〈急に食べたき海のもの〉が、遥か遠いものを希うような切なさを帯びてくるのである。「食べたい」という日常的で根源的な欲望を真正面から描きながら、こんなに美しく詩に昇華できるのだと印象に残った。

掲句の載った「鷹の百人 鷹年譜」は、結社誌「鷹」50周年記念号の付録として刊行されたもの。選出された百人は、現在の「鷹」を代表する作家ばかりではなく、かつて「鷹」に集い、途中で別の道に巣立った作家も入れた百人を収めている。この人もあの人も、かつてこの結社にいたのかという驚きと歴史を感じさせる、貴重な年譜となっている。

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