樋口由紀子
あきらめてゆらりと豆腐桶の中
出口とき子 (でぐち・ときこ)
豆腐が桶の中を沈んでいく様子が見えるようだ。豆腐はまっしろで、やわらかく、口当たりもよく、それでいて自分の味がしっかりとある。それにしても豆腐はなぜあのように悟りきったように、落ち着いて沈んでいけるのだろうか。けれども、私(作者)は豆腐のようになれない。「あきらめる」ことも「ゆらりと」することもできないのだとつくづく思う。
わかっていてもなかなかできないことがある。見習いたいけれどなかなかできないことがある。おさまらなければならないのにおちつけない。いつもじたばたあくせくしてしまう。自分自身に向かって言い聞かせているのだろう。〈夫がある子もあるモデルガンもある〉〈この街に馴れて口紅買いにゆく〉〈終日をテレビの前の卑怯者〉 『合同句集 鷗たち』(1988年刊 編集工房円)所収。
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