相子智恵
もろ乳にほたる放たれし夜も杳く 瀬戸内寂聴
句集『ひとり』(深夜叢書社 2017.05)所収
濃厚な句だ。蚊帳の中を想像した。乳房のほの白さの上に、戯れに放たれた蛍の光。その光があれば夜であり、暗いことは想像されてくるので、じつは下五がなくても景は成立するのではある。が、やはり〈夜も杳く〉の感慨があってこその句だろう。
「杳(くら)い」という語は、「暗くてよくわからない」という意味の他に、「はるかに遠いさま、奥深く暗いさま」があるので、この情景が回想の彼方にあり、暗さの中に時間の厚みのようなものも重なってくる。それが一句をさらに物語性を強いものにしている。「杳(とお)い」と読む例もあるので、もしかしたらこの句の読みも「とおく」なのかもしれない。
このように情念の濃い句は、そういえば現代にはあまり見かけないように思う。美しい句だ。
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