2019年7月8日月曜日

●月曜日の一句〔新谷壯夫〕相子智恵



相子智恵







心持傾きしまま水中花  新谷壯夫

句集『山懐』(俳句アトラス 2019.6)所載

安っぽい水中花の、安っぽさの極みのような句で面白い。水に入れると開く、昭和らしい紙製の水中花を想像する。土台が水の底で心持ち傾いていたのだろうか、あるいは紙のクセか、少し傾いて水の中に立っている。

〈傾きしまま〉なので、いつ見ても直されることもなく、少しだけ傾いたままなのだろう。なんとなくトイレの小窓の桟にでも置かれていそうだな、と想像する。置いてあることすら忘れ去られてしまっているような、気にも留められていない水中花。

行きつけのお店だろうか。あるいはよく行く誰かの家か。心持傾いていることに気づいてはいても、自分では直せない他者の水中花。でもいつ見ても〈心持傾きしまま〉で、その安っぽさに何だか心が和むのである。

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