2019年10月21日月曜日

●月曜日の一句〔森下秋露〕相子智恵



相子智恵







枝豆と殻入れ同じ皿二枚  森下秋露

句集『明朝体』(ふらんす堂 2019.9)所載

なんでもない景が描かれているのに、ふっと笑えて、のちに「もののあはれ」がある。俳味があるというのはこういう句のことをいうのだろう。

二枚の皿を描いた句では、〈秋風や模様のちがふ皿二つ 原石鼎〉が有名だ。石鼎の句には〈父母のあたたかきふところにさへ入ることをせぬ放浪の子は、伯州米子に去って仮の宿りをなす〉という前書きが付されている。掲句を読んで、〈二つ〉と〈二枚〉の数詞の語感の違いに改めて気づかされた。

石鼎の、人妻との駆け落ちが失敗した米子の仮住まいの食卓で詠んだ、形見に分けた夫婦皿と模様の揃わないもう一つの皿のあはれは〈二つ〉。秋露の、おそらくは現代の居酒屋で詠んだであろう、きれいに揃った人工的な皿のあはれは〈二枚〉。皿への思い入れの深さが〈二つ〉と〈二枚〉の違いに表れている。それぞれの俳句の背景が自然に呼び込んだ数詞の違いにハッとするのである。

掲句、特に食器にこだわりのない(コスト的には、割れにくい丈夫な皿であることが大事)チェーン店の居酒屋を想像した。注文した枝豆がやってくる。「枝豆の殻はこちらに入れてください」と店員から一緒に差し出された皿を見れば、それは枝豆がのった皿と同じ模様の、揃いの皿であった。

ぴったり揃った人工的な二枚の皿の中に、一方には莢の中でふくふくと育った枝豆がこんもりと盛られ、一方には、実だけが食べられて、がらんどうの食べ殻となった莢がどんどん積まれていく。二枚の揃いの皿の中の枝豆と食べ殻の対比が、可笑しみの中にあはれを誘うのである。

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