2020年6月22日月曜日

●月曜日の一句〔小島健〕相子智恵



相子智恵







ペリカンの水噛みこぼす大暑かな   小島 健

句集『山河健在』(2020.6 角川文化振興財団)所載

ペリカンは、嘴の大きな袋に大量の水と一緒に魚をがばっと掬って食べる。魚は食べて水は吐き出すのだけれど、嘴をパクパクと動かして水を吐き出す様子は、まさに〈噛みこぼす〉だと膝を打つ。ペリカンの迫力と生臭い匂いが〈大暑〉の力強い暑さと響きあっている。

他にも〈沢蟹の浮いて走れり青嵐〉〈土砂降りの泥の中なる蟇の恋〉など夏の句の中から抜いただけでも、動物の生命が生き生きと鮮やかに描かれた句が多くて瑞々しい。

〈緑蔭を影新しく出でにけり〉のように、人間を描いても自然との関わりの中で生命力が引き出されている。暑くて疲れた身を涼しい木蔭に入れ、しばらく休んでから出ると、自分の影まで新しくなったように感じられるのだ。このような句中の命に触れていると、こちらの魂も伸びやかに、水を与えられたように潤ってくるような気がする。

0 件のコメント: