2020年12月28日月曜日

●月曜日の一句〔マブソン青眼〕相子智恵



相子智恵







僕が僕に道を聞くなり銀河直下   マブソン青眼
Je demande à moi-même / Mon chemin à haute voix / Sous la Voie lactée

句集『遥かなるマルキーズ諸島 L'île-sirène』(2021.1 参月庵)所載

句集に挟んであったエッセイによれば、作者は2019年7月から今年の6月まで、フランス領ポリネシア・マルキーズ諸島ヒバオア島で、一人で暮らしたという。画家のゴーギャンや詩人のブレルが最晩年を過ごし、眠る島だ。そこで作られた俳句と短歌を纏めた一冊より引いた。

〈銀河直下〉の島で、たった一人の僕が僕に、これから進むべき道を問う。頭上には大きな天の川がまるで一本道のようにあって、僕の進むべき道と響きあう。なんと大きく美しく、孤独で、それでいてまったく寂しくない句だろう。

神を信じるしかない島よ崖しかない
Ô île où on est obligé / De croire en Dieu Ô île où il n'y a / Que des falaises

そんなヒバオア島で、作者は新型コロナウイルスに罹患した。病院も酸素ボンベもない島で、肺が開かないまさに絶体絶命の状況の中、仮住まいの小屋に寝たきりで籠りながらこのような句も詠み、帰国を余儀なくされる。

立小便も虹となりけりマルキーズ
Même mon urine / Devient un arc-en-ciel doré / Aux Marquises

自らの体と島が一体となるような句が多い句集だが、中でも掲句は特に好きな句のひとつ。自分の尿に小さな虹が生まれる。その虹もこの島で生まれては消える数多の虹のひとつになるのだ。上記のような極限状態に置かれることもありながら、自らの肉体と島のあれこれが絡み合うような祝祭的な気分が一冊を覆っていて、孤独なのに賑やかな句歌集である。

来年はどのような年になるのか、これほどまでに先が見えないこともめずらしい。〈僕が僕に道を聞くなり〉しかないのだろう。ひとり一人のゆく道は孤独だが、寂しくはない。落ちてきそうなほど見事な銀河の、それこそ星の数ほどの光の下ならば。

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