2021年3月17日水曜日

●コモエスタ三鬼41 東京タワー

コモエスタ三鬼 Como estas? Sanki
第41回
東京タワー

西原天気


東京タワーという昆虫の灯の呼吸  三鬼(1960年)

港区芝公園に東京タワーが建ったのは1958年12月23日。わずか2年後、まだ新築のぴかぴか状態のときに詠まれたことになる(『変身」収録)。わざわざ「新品」状態のことを言ったのは、昆虫が連想されるのは、鉄の建造物がある程度古びてからのこと、というアタマがあったから。

例えば、川崎浮島あたりのコンビナートが灯をともす夕暮れから夜。あれに昆虫を思うのは、造形よりも質感、それも年月を経た質感が大きい。

けれども、建造後わずか2年のこの電波塔にも昆虫との相同を見出したのは、先見なのか、あるいは造形寄りの把握なのか。

いずれにせよ、最後の「呼吸」でこの句は昇華する。視覚的相同をその場の空気が包み込む。

街が息づく、人工物が息づくことの近代的な描写を見せてもらい、60年前の都市の一角で、遠景の、あるいは目の前の、あるいは見上げる東京タワーと息を合わせるかのような感慨・感傷があわく灯る。


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