2021年4月9日金曜日

●金曜日の川柳〔石田柊馬〕樋口由紀子



樋口由紀子






産声ですか秋の木曽川ですか

石田柊馬 (いしだ・とうま) 1941~

「産声」も「秋の木曽川」もこんなふうに一句の中で出会うとは思ってもみなかったはずである。新しい生命の誕生の「産声」、厳しい冬が来る前の、自然に恵まれた信州の一級河川の「秋の木曽川」。どちらも具体的でよくわかるが、つながると一気に抽象化する。

それは誕生の喜びや情景に依存することなく、最後に音だけを残すというのを優先しているからだろう。だから、具体的なモノやコトにとどまらないでいることが可能になる。「産声」を出すことでもう一つの音の「秋の木曽川」を、「秋の木曽川」を後ろに置くことでもう一つの音の「産声」を、「ですか」の措辞で、それぞれの音を対比させながら相乗効果を生む。演出が巧みである。『現代川柳の精鋭たち』(2000年刊 北宋社)所収。

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