相子智恵
綿虫の吹き飛んで行く浮御堂 西村麒麟
句集『鷗』(2024.7 港の人)所収
下五の〈浮御堂〉への展開に唸る。綿虫の頼りなさと、少しの風にあおられて吹き飛んでいってしまう様子はよくわかるなあ、と思って読み進めていくと、そこは浮御堂であり、琵琶湖の風だというのである。極小の綿虫と、湖上の堂との寄る辺なさのつながり。その向こうに見えてくる琵琶湖の波の光の中に消えていく綿虫の光。
〈さみだれのあまだればかり浮御堂 阿波野青畝〉は音の名句だが、掲句も同様に「虫」「吹き」「行」「浮」あたりの音の運びも考えられているように思う。青畝の句が浮御堂の雨の名句であるのに対して、こちらは風だ。芭蕉も青畝も詠んだ浮御堂という拝枕に、また一句が加わったように思った。
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