相子智恵
忘るるべきことも記せり古日記 福永法弘
句集『永』(2024.12 KADOKAWA)所収
新しい日記を買ったから、あるいはこれから買うから、今年あった「本当は忘れるべきだ」と思っていることまで、古いほうの日記の最後に書き記してみた。悔やんでも悔やみきれないことなのかもしれない。その思いを昇華させるために書く。
あるいは別の解釈もある。〈古日記〉を年末の感慨の中で読み返してみたら、過去の自分が書き残していたある日の日記が、今となっては「忘れるべきことだな」と気づいたのかもしれない。
いずれにせよ日記とは、その日の中で印象的な出来事を「忘れないために」書くものだ。そんな常識を、「忘れるべきものも書く」と真逆に転換させたところが面白い。
「忘れるべきだ」と思ったことほど、人間はいつまでも忘れずにくよくよするものである。〈忘るるべき〉の強さが、本当は忘れられないということを、反対に強く印象づけている。
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