2025年9月12日金曜日

●金曜日の川柳〔飯田良祐〕樋口由紀子



樋口由紀子





稲刈りが始まる通天閣展望台

飯田良祐(いいだ・りょうすけ)1943~2006

もうすぐ、近隣の田畑のあちこちで稲刈りが始まり、秋を実感する。しかし、「通天閣展望台」で稲刈りが始まることはない。通天閣は個性的なかたちをしていて、大阪を眼下に一望している。ジャンジャン横丁から見上げる通天閣展望台でたわわに実った稲穂が刈り取られていくのを実景として作者には見えるのだろうか。舞台装置は完璧である。

この世にはいくら待っても始まらないものがある。「始まる」ことのないことを「始まる」というのはかなり屈折していて、話が変わっていくが、新らたな関係性を見出していくようでもある。喜怒哀楽では括り切れない心情を垣間みせる。天に通じる塔の稲刈りが終わったあとの視線の行方が気になる。『実朝の首』(2015年刊 川柳カード叢書)所収。

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