2011年11月16日水曜日

●煮凝

煮凝

煮凝やうつけ泪のにじみくる  石原八束

スナックに煮凝のあるママの過去  小沢昭一

煮凝へ赤ちゃんが来て沈みます  坪内稔典

煮凝の途中なれども嗚呼をかし  嵯峨根鈴子


2011年11月15日火曜日

●青春

青春

青春の只中の黴諾へる  中原道夫

斑猫やわが青春にゲバラの死  大木あまり

せいしゆん に こくる ちくる や あけやすき  高山れおな〔*〕

冬銀河青春容赦なく流れ  上田五千石


〔*〕『豈』第52号(2011年10月)

2011年11月14日月曜日

●月曜日の一句〔今井豊〕 相子智恵


相子智恵








すれちがふ少女寒気のつぶてめく  今井 豊

句集『草魂』(2011.6/角川書店)より。

このところ、忙殺されていて毎日の記憶が薄い。そしていつの間にか、冬が立ってしまっていた。なんということだろう、万事が速すぎる。

……とはいえ、この句の颯爽とした速さには生き返る。冬らしい強さと楽しさがある。

少女が駆けてきて、作者とすれ違ったのだろう。すれ違う一瞬、少女が起こす風を感じる。その〈寒気のつぶて〉を投げるようなスピード感。

ランドセルで駆け抜けた小学生か、あるいは足早に闊歩する女子高生でもいいかもしれない。

言葉の感触は冷たいのに、この句には熱さがある。それは〈寒気のつぶて〉に、少女の生命の熱が込められているからだ。

大人になってからの「記憶の薄い速さ」と、少女の「生命が熱い速さ」は、真逆である。
記憶が薄い速さはいやだ。生命の熱い速さがいい。

空気がキリッと澄む冬はなおさら、そういう速さがいい。



2011年11月13日日曜日

〔今週号の表紙〕第238号 蔵 山田露結

今週号の表紙〕第238号 蔵

山田露結


我が家に「蔵」がありました。いわゆるなまこ壁のいかにも「蔵でございます」という風情の建物ではないのですが、ウチの家族は皆その建物を「蔵」と呼んでいました。

我が家は呉服店を営んでいて「蔵」には店の在庫やら備品やらがたくさん仕舞ってありました。ようするに倉庫ですね。何でも「蔵」は築百年以上は経っているらしくて私は物心ついた頃から毎日「蔵」を目にしながら育ちました。でも、私が実際に「蔵」の中に入ることは滅多にありませんでした。

小学生の頃のある日、ひとつ年下の弟が突然行方不明になってしまったことがあります。夜遅くまで家に帰らず、どこを探しても見つからないために両親が警察に通報し、夜中に警察官が何人も家にやって来て弟の捜索をはじめました。

警察が家に来るなんてただ事じゃないと思いながら私も一緒に弟を探しました。捜索がはじまって数時間後、弟は「蔵」の屋根裏で熟睡しているところを発見されました。すると母親がすかさず弟のところに駆け寄って行って涙を流しながら無事だった彼を抱きしめました。弟はどうしてそんなところで寝ていたのかを繰り返し聞かれていましたが、結局何も答えませんでした。私はこんな妙な騒ぎを起こして家族を心配させる弟をなぜか少し羨ましいと思いながらその光景を眺めていました。

今年、あちこち傷みの激しかった「蔵」を取り壊すことになりました。それでふとこの弟の一件を思い出したのです。「蔵」の思い出といっても私にはこの一件以外にはほとんど何も思いあたらなかったのですが、それでも「蔵」がなくなると思うと何だか急に切ない気持ちになりました。そして「蔵」は解体業者によってあっけなく取り壊されてしまいました。

馴れ親しんだ建物が無くなってしまうときには、大切な人と別れるときと同じような感情が起こるものなんですね。今回、そのことをはじめて知りました。


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2011年11月12日土曜日

【俳誌拝読】『や』第57号を読む

【俳誌拝読】
『や』第57号(2011年10月30日)を読む

西原天気


発行人・戸松九里。本文52頁。同人諸氏それぞれ10句ずつを掲載。ほかに、外部から「『や』56号を読む」の寄稿(この号は今井肖子氏)、同人・関根誠子第二句集『浮力』特集、「や」15周年関連の記事など。

同人諸氏10句より。

花火咲ぐたあだそれだげで泣ぐ泣ぐ泣ぐ  菊池ゆ鷹

方言(東北弁のひとつ?)で10句。

真つ直ぐな煙三尺瓜の馬  久能木紀子

クチナシの花の仰山母細し  石井 和

八月やお腹が減ると見る時計  遠藤きよみ

見ますね、たしかに。

暑さ蒸し蒸し家計簿のぼうぼう  吉野さくら

「ぼうぼう」の感興。

通学の後の通勤朝曇り  中村十朗

我画雅餓蛾偽妓疑義愚解夏吾伍後誤語  関根誠子

雷鳴や原稿用紙の薄きマス  松田磨女

大西日富士を見やうと崖の上  小山 渚

めりめりと割れば西瓜の呵々大笑  のら

蔓あぢさゐ見あげる鼻の穴涼し  三輪初子

炎天のベンチに正座無精ひげ  中沢 春

毒りんごめきて大暑のりんご飴  菊田一平

あんまりなのけ反りやうや今年竹  矢島哺陀

八月の夫婦茶碗の底に月  柏原空見子

実柘榴の天変地異の入歯かな  豊田美根

天変地異!

学校にいうれい話麦の秋  麻里伊

目の前のバッタ大腿四頭筋  石川ひろ子

笑ふ眼に涙滲みて秋の蝶  田中由つこ

一面の空と瓦礫と秋近し  三瓶つなみ

月の無い夜を背負うてカブト虫  田沼塔二

蝿生れて障子を叩く命かな  戸松九里