2009年6月5日金曜日

〔ぶんツボ〕平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』

〔ぶんツボ〕
平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』
光文社文庫
文庫のツボ、略して「ぶんツボ」
さいばら天気


【讃・文庫本】

ポケットに(というと青春っぽすぎますね)、カバンにすっぽり入る手軽さは出先で読むのに最適。寝床でも腕が痛くならない軽さ。1頁700字ほどですから、すいすいページが進む快感もあります。値段は、昔と比べると高くなりましたが、単行本の半分程度でしょう。と言いつつも、自分自身、文庫で読む比率は高くない。読む本全体の1割くらいでしょうか。読みたいものがすべて文庫化されるわけでもないし、単行本で目に付いたときに買ってしまうことも多い。それでも文庫本は魅力です。

さて、この〔ぶんツボ〕シリーズですが、俳句の文庫刊行は少なく(絶版の朝日文庫・現代俳句の世界シリーズを思い出します)、したがって俳句以外の分野になると思います。「ウラハイ」では、中嶋憲武さんが団鬼六『真剣師 小池重明』(幻冬舎アウトロー文庫)という名作を紹介してくれていました。これを後追いで〔ぶんツボ〕シリーズの第1回とし、今回第2回は「「独白するユニバーサル横メルカトル」です。

 

表題作は2006年に第59回日本推理作家協会賞を受賞。2007年「このミステリーがすごい!」第1位を獲得した短編集。といっても分野としてはミステリーよりもホラー。著者もwikipediaには「ホラー作家」とある。

9つの短編の題材をかいつまんでいくと、ホームレス惨殺、人肉食、DV、洗脳など、いわゆる明るい話題は皆無。明るくないどころか、とことんどす黒い。血やら肉やら内臓やらで全編が埋め尽くされ、物語の湿度・温度が内臓的。

DVやホームレスなどの語を挙げたが、社会問題的な扱いは皆無。ただただ、怖く、残虐に、クールに、気持ち悪く、描かれる。そこに生半可さがないので、虚構としての純度が高い。結果として読者は「なんというおもしろさ!」という読む快感に包まれ、それぞれの短編が神々しく輝くようでさえある。

と、こう大袈裟に褒めちぎると、ホラー小説ファンのように思われるかもしれないが、ぜんぜんそんなことはなく、平山夢明もこの本が最初。人肉食や猟奇残酷趣味への興味もない。それどころか、他人が注射されているのを直視できないくらいに「痛いこと」が苦手。そんな私が物語に没入してしまうくらい、この短編集、この作家は巧みかつユニーク。

単行本の帯の惹句に「脳内麻薬様物質」の語があったことを解説で知ったが、「読むドラッグ」に位置づけていい本なのだろう。痛いこと、残酷なこと、死にまつわること、鬼畜なこと、それらへの拒否感が強い人間のほうがむしろ、ふだん耐性や免疫がないぶんこのドラッグはよく効くのかもしれない。


〔amazon〕『独白するユニバーサル横メルカトル』

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