【みみず・ぶっくす10】
西瓜糖カンフーの日々 小津夜景
日々のはじめに
いま、わたしが過ぎ去りし日々を思い起こすとき、ぜひあなたに話したいと思うのは、あの日わたしが体験した素晴らしい天地投げのことだ。それは文字どおりヘヴンとアースとを股にかけた事件だった。
相手と揉みあうとき、わたしのからだは天と地との両方にひきのばされ、つきたての餅のように柔らかな肉となる。そのあと、屈葬みたいにまん丸くなる。伸び縮みしあう身体。それはまさにわたしの求めるタイプのファンキーなふれあいだ。
ファンクはファイヤーに似ている。いつも姉弟子たちが火を吐いているのはそのせいにちがいない。
ファンクはジャンクにも似ている。そして姉弟子たちはゴミが大好きで、ゴミのように暮らしている。
わたしはゴミより師の方が好きだった。だが師は、わたしをアイデスへの旅に送り出してしまったのだった。すべてが西瓜糖からなる、あの iDEATH に。
とはいえその旅について書くのはまた次の機会にしたい。わたしが今から書くのは、わたしがあの穏やかなiDEATHを知らない頃の、わたしが旅に出る前の、わたしがこの場所にいた頃の、姉たちの真似をしてゴミをキラキラ燃やしていた頃の、つまりわたしがまだ平凡な人間だった頃の、光景である。
巻物を手に打ち鳴らし乙女かな
体操部拳譜拳譜と暮れにけり
制服やトンファーの影ながくして
ぬつ殺しあつて死合はせ委員会
阿修羅似のむくろや修羅の恋ごころ
キューティクル煌めき龍のごとくなり
向き合うてやがて両手の円運動
仁★義★礼★智★信★厳★勇★怪鳥音
足蹴りを躱すお前の師匠萌え
もぢもぢと師系告りあふ堤防で
*「死合わせ委員会」は無知蒙昧「ヌンチャク少女ミサキ」に登場する語。
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