2015年9月14日月曜日

●月曜日の一句〔石井美智子〕相子智恵



相子智恵






葛の花だんだら畑に寄せ来る  石井美智子

句集『峡の畑』(2015.8 ふらんす堂)より

山深い段々畑の様子が目に浮かぶ。どこか親しみのある〈だんだら畑〉という語からは、出荷する野菜を栽培している大きな畑というよりは、自分たちで食べる分の野菜を植えてある小さな畑を思った。

山を切り開いて作った小さな段々畑に、繁茂した山の葛が荒々しく押し寄せている。紫色の葛の花は美しくも、素朴で小さな段々畑を飲み込まんと、花の盛りを謳歌している。一方は人が植えて手入れした野菜であり、もう一方は手入れされない自然の葛という、畑と山の植物の対比が鮮やかだ。

山に囲まれた素朴な農の暮らしが、この一つの景からだけで立ち上がってくる。それを見つめる作者の眼は、けっして旅行者の眼ではなく、その暮らしの一員としての眼差しなのだろうということが、〈だんだら畑〉の愛おしさと、葛の量感の迫力から伝わってくるのである。

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