2018年2月12日月曜日

●月曜日の一句〔武藤紀子〕相子智恵



相子智恵






万太郎の寒の蜆のやうな文字  武藤紀子

シリーズ自句自解2 ベスト100『武藤紀子』(ふらんす堂 2018.01)所収

なるほどと笑ってしまった。たしかに久保田万太郎の、小さくて丸っこい点々とした文字は蜆みたいだ。

自解によれば、桑名の料亭「船津屋」の句碑を見ての作だという。万太郎は泉鏡花の『歌行燈』の戯曲化の構想を練るためにこの料亭を訪れた。

どこにも切れがなく、ずるずるっと流れて〈文字〉に着地する表現も内容にふさわしい。また、これがただの蜆でもいいかというと、やっぱり寒蜆がいいような気がする。それはなぜだろうと考えるに、栄養価が高い云々ということよりは、まとっている情緒による。ただの蜆だと面白みが勝ってしまうように思うのである。

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