2019年5月24日金曜日

●金曜日の川柳〔玉木柳子〕樋口由紀子



樋口由紀子






生も死もたった一文字だよ卵

玉木柳子

余分な心情表現はまったくない。強引な言い切り方で独得の空気感を漂わせている。「生」も「死」も「卵」もたった一文字である。しかし、一文字の漢字なんて他にもいっぱいある。これらを選択した意味はどこにあるのか。そして、わざわざ「一文字だよ」と述べる理由はあるのかと、掲句の前で立ち止まった。

「生」と「死」は両極である。それを「一文字」という共通項で括る。それを「卵」という「生」と「死」を併せ持つものに語りかける。卵に向けるまなざしを感じる。「生」と「死」を把握させ、一瞬とか、切実さや脆さや儚さを否応なく確認させているのだろうか。生も死もたった一度しか起こらないことだけが確かなことである。〈釦ひとつはずしてカゴメの輪に入る〉〈転ぶこと位は何度でも見せる〉〈風船になろうか妻よ青空だ〉 『砂の自画像』所収。

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