2019年5月17日金曜日

●金曜日の川柳〔梅村暦郎〕樋口由紀子



樋口由紀子






なにもなき街 なにもなく風通る

梅村暦郎 (うめむら・れきろう) 1933~

連休の二日間を広島の世羅高原のコテージで過ごした。なにもないところで、なにもしないで、なにも考えずに、ただぼっーとしてした。なにもなく風も通り、新緑の中の風は心地よく、「風薫る」とはこういうことなのだと思った。

そのときふと掲句を思い出した。この風は心地よい、お気楽ではない。虚しく、冷たい風だろう。街にはいろいろなものがあふれている。なにもないことはない。ただ、作者が必要とするものがなにもない。しかも、街も作者を必要としていない。生きている意味を問うているように思う。「風」はそのときどきで、それぞれの位置で、表情を変えて、別物になる。そんなことを考えていると風がひんやりと通り抜けていった。

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