2021年11月29日月曜日

●月曜日の一句〔加藤又三郎〕相子智恵



相子智恵







まんぼうを見て外套の軽くなる  加藤又三郎

句集『森』(2021.8 邑書林)所載

水族館で見た帰りなのだろう。不思議な形をしているまんぼうは、上下の鰭をくねらせながら、空を飛ぶようにゆっくりと進み、じっと見ていると不思議な浮遊感がある。まんぼうの入っている水槽は、たいていガランと殺風景で(いろんなものにぶつかってケガをしないようにしているらしい)寄る辺ない寒々しさがあって、個人的には冬に見たい水槽だ。

掲句〈外套の軽くなる〉には驚きつつ、実感があった。まんぼうの浮遊感が乗り移ったかのように、厚くて重かった外套が軽くなったような気がしたのだろう。それだけではなく、心の中に抱えていた重い鬱屈も、もはやどうでもよくなって、軽くなっているのだ。掲句を読んで、久々に私もまんぼうを見にいきたくなった。

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